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発熱の役割

 発熱は恒温動物に古くから備わった生体防御の一つです。体温のセットアップ値37℃を一時的に39℃にして発熱します。38℃に発熱していても、悪寒がするのはそのためです。高体温にすることによって、病原体の増殖を抑え、自己の免疫系を活性化する働きがあると考えられています。また、がん細胞が熱に弱いことは古くから知られており、温熱療法(ハイパーサーミア)が試されてきました。この治療法の歴史は古く、記述が残っているだけでも、古代エジプト、ギリシャ・ローマ時代に遡ることができます。医学の父とも称されるヒポクラテスは熱の有用性を説きました。

 

 近世になってようやく今から160年ほど前にドイツの医師ブッシュが細菌感染である丹毒によって高熱が出たがん患者のがんが消滅したことを科学的に報告しました。アメリカの外科医コーリー William Coley (活躍期間1891〜1936年)は細菌感染による発熱とがんの自然退縮に気付き、初めは生きた連鎖球菌 Streptococcus pyogenes を、後に霊菌 Seratia marcescens を、更に死菌をワクチンとして腫瘍内や周囲に接種し、発熱を人為的に誘導して、がん患者の治療を行いました。手術不能とされ顕微鏡でも確認された悪性腫瘍患者896症例の5年生存率の報告では、がん種によって違いますが、上皮性がんでは34〜73%、肉腫では13〜79%と当時としても今でも驚異的な数字を報告しています。このコーリーの細菌ワクチンは当時、コーリーの毒 "Coley's toxin" と誤って呼ばれ、ちょうど時期を同じくした無菌手術の普及、放射線療法の導入、次いで化学療法の導入の時代の流れに消されて、第三者による追試や科学的な検証もされずに忘れ去られてしまいました。

 1927年には、オーストリアの医師ワグナー-ヤーレッグによる当時致命的であった神経梅毒に罹患した患者に三日熱マラリアを人為的に感染させて自己発熱を誘導するという治療法に対して、ノーベル賞が授与されています。

 

 近年でも1972年にロックデッシュエル Ruckdeschel らは、肺がんの術後細菌感染である膿胸になった場合、皮肉なことに肺がん患者の5年生存率がずっと高い(50%対18%)ことを報告しています。現在も、がんの治癒過程で発熱が絡んでいることを多くの臨床医は観察しています。

 私たちは大阪府立大学の獣医グループと44症例のイヌとネコを使った共同研究を行い、高温による障害がでる温度域と安全温度域の特定、リンパ球を中心とする免疫を亢進する温度と加温時間の特定を行ってきました。これらの基礎的なデータをもとに安全で効果的な人の温熱治療ができるような加温プログラムを作りました。