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熱ショック・タンパク質(HSP)

 

熱ショック・タンパク質(HSP:ヒート・ショック・プロテイン)と呼ばれる一群のタンパク質は、熱ストレスや精神的なストレスなどによる誘導だけではなく、一部は常時細胞内に存在して、生命現象を行う種々のタンパク質の新生時から正しい立体構造形成、輸送、そして分解までの面倒を見るタンパク質の「品質管理役」、なくてはならない「介助役=シャペロン」のタンパク質群です。熱は効果的に多くのHSPを個々の細胞内に誘導することができ、細胞が更にストレスに曝された時、細胞が生き延びられるように働きます。それゆえ、緊急事態に誘導されるHSPは「細胞危機対応たんぱく質」とも言える役割も担っています。

代表的なHSPを分子量の順に視覚化した図(3つのサンプル分析

 近年、温熱療法のメカニズムが単にがん細胞やウイルス感染細胞の易熱性に依る直接的な作用というよりむしろ、適切な加温では、熱ストレスによって誘導発現されるHSPなどによる効率的な抗原提示の亢進とリンパ球の活性を促進するという全身の免疫賦活化(活性化)が、より重要な抗がん作用であることが判明しつつあります。

 実はこの点が従来のハイパーサーミアと私たちの新しいハイパーサーミアの考え方は正反対なのです。いまだに「焼き尽くす」の考えに囚われている従来のハイパーサーミアでは、免疫のことはほとんど考慮せず、より高い温度とより長い維持時間、抗がん剤や放射線との併用に視点を置いています。こうした考えでは、HSPはがん細胞内にも熱誘導されるため、2回目以降の治療の「効き」を損なう「悪者」=敵扱いされています。しかし、私たちはHSPが免疫を賦活化し、がん細胞を排除する「頼もしい味方」と考えます。また、がんを焼き尽くすような高い温度は、免疫細胞にも障害をもたらすことも私たちは動物実験で確認しています。

 近年これらのHSPは、がん細胞自身の自殺(アポトーシスと言う)を促進したり、免疫系とも密接に関係していることが明らかになりました。「緊急シグナル」としてのHSPは、がん細胞に立ち向かうNK(ナチュラル・キラー)細胞、NKT(胸腺外分化T)細胞、活性化T細胞、特異抗体産生など自然免疫と特異(獲得)免疫を広範に活性化させることができるのです。一部の研究者は、免疫細胞外に分泌されるHSPをシャペロンとサイトカインの両方の機能を持つ意味で、シャペロカインchaperokineと呼ぶことを提唱しています。そこで最近解明されたHSPを介した強力ながん免疫のメカニズムの一つを紹介します。

 ハイパーサーミアの加温によってがん細胞の一部は死滅します。その際HSPを含む細胞の中身が飛び出します。また、死滅せず生き残ったがん細胞でも多量のHSP(特にHsp72と呼ばれる分子)が誘導され、その一部は細胞表面に出たり、細胞外に分泌されたりします。一部のHSPはがん特異的抗原と結合したままで、自己の「がんワクチン」として、マクロファージや抗原提示能を特化した樹状細胞に取り込まれ、その成熟と抗原提示能を効率良く亢進します。また、がん細胞内でも熱によって変性したタンパク質の一部は分解が進みます。その一部は短く切断されたまま組織適合抗原 MHCクラス I(ワン)というタンパク質分子の溝に、まるでホットドッグのソーセージのように、はめ込まれて「マーカー」となり、細胞表面に(交叉)提示されます。リンパ球は大きいままのがん抗原分子を直接見分けられませんが、こうして「分子標識」として細胞表面上に抗原提示された場合のみ、がん抗原に特異的なTリンパ球によって効率的に認識され、活性化してがん細胞の排除を強力に促進することができるようになります。NK細胞は抗原提示を全くしない異常細胞を絶えず監視し排除します。

 

 また、温熱療法には脳内でエンドルフィンのようなのモルヒネ様物質を産生し、痛みを緩和する効果があって、QOL(生活の質)の向上に貢献します。この作用は、治癒に必要な血管拡張・血流量増加をもたらすプロスタグランディンの産生阻害を起こすモルヒネや消炎鎮痛剤とは異なります。