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熱の有用性を見い出したギリシャの文化遺産を引き継いだ古代ローマ帝国は、首都ローマにカラカラ大浴場を造営すると共に、支配地に浴場や温泉複合施設を建設してきました。中でも、お風呂=バスの語源になっているイギリス南部のバース市(Bath)の温泉遺跡は発掘公開されており、今も温泉が湧いていますが、イギリス人には入浴の習慣が一般的になかったため、飲泉のみです。
古代ローマ温泉遺跡(イギリス南部、バース市) 今も湯元からこんこんと温泉が沸き出しています
日本では水と温泉資源に恵まれ、入浴が習慣化され、温泉療法として湯治が根付いてきました。確かに温泉は健康に有用で、積極的に温泉を利用している地域の小学生の風邪の罹患率が有意に低く、老人医療費も低下しているとされています。
しかし何事にも裏表があり、諸刃の剣になりうるように、入浴も二面性を持っています。例えば温度をとってみても、42℃未満のお風呂はリラックスにして副交感神経を刺激し血流を良くし、脂肪を効率良く燃やし、冷えを改善し、基礎体温を上げますが、42℃を越えるような高温浴は交感神経を興奮させ逆の作用をします。
全身の血流の改善について、田中信行 鹿児島大学医学部教授のグループは、適正な水温41℃10分程度の「入浴による血管拡張は心臓後負荷、すなわち心臓の圧抵抗を低下させるため著明に心収縮力を高め、心抽出量すなわち全身血流量を増大させることになる。さらに血圧下降による反射性頻脈と温度そのものによる心拍促進作用も加わり、入浴により心拍出量は1.8〜1.4倍にも増大する。この心抽出量増加作用はいかなる強心剤よりも強力であり、しかも心筋への直接作用ではなく血管抵抗の減少による心臓余力の向上によりもたらされることは最も注目すべきことである。それが心拍数や心抽出量の増加という、一見心仕事量を増加させるかの如く見えながら、心疾患や高血圧患者の入浴に際してほとんど不整脈の出現や心不全の悪化を見ない理由であろう。」とし、今まで禁忌とされてきた心不全の患者の入浴をリハビリテーションとして積極的に応用することを提案しています。

また、この程度の温浴前後に静脈血を採って比べると、入浴前の血液はどす黒い静脈血ですが、入浴後の血液は動脈血のように鮮紅色になり酸素が100%近くになるとともに、溶け込んだ二酸化炭素がぐっと減り、酸性側に傾いていた血液のpHが0.1〜0.3程度上昇しアルカリ性に傾きます。これは「末梢血管が拡張して皮膚直下の動静脈吻合部が十分に開き、圧力の高い動脈系から静脈系へ血液が流入して、静脈血の動脈血化という現象が生じるからです。そのため酸素を含んだ血液が体の隅々にまで行き渡り、代謝も盛んになります。」(大塚吉則著「温泉療法」)と同時に、リンパ球と癌細胞、免疫細胞どうしの接触チャンスが増します。
一方では、入浴に関連した死亡者数は一年間に1万4,000人以上と言われています。この数字は交通事故死の数を上回るものです。入浴に伴う死亡事故の半数以上を占めるのが「心筋梗塞」で、次いで「脳卒中(脳出血と脳梗塞)」です。入浴に伴って起こる死亡事故の多くは、急激な血圧の変動と血液濃縮が関係しています。特に冬期の脱衣場の暖房と入浴前コップ1〜2杯のアルコール以外の水分補給が、事故を防ぐために有効です。また、溺死や転倒事故も見逃せません。転倒を予防する手すり、滑らないマットなど用意したいものです。